賞与(ボーナス)支給時の社会保険料や所得税の計算方法、必要な手続きについて解説します

今回は、賞与(ボーナス)を支給する時に、賞与から控除される社会保険料や所得税の計算方法、そして会社がしなければならない手続きについて解説します。

目次

賞与の差引支給額(手取り額)の計算方法

控除される社会保険料の計算

各従業員に支給する賞与額が決定したら、まず賞与から控除される社会保険料を計算する必要があります。

ここでの社会保険料とは、健康保険・介護保険・厚生年金保険・雇用保険にかかる保険料のことです。(労災保険については従業員負担がないため、ここでは労災保険を除く上記4つの保険料について計算します。)

健康保険・介護保険・厚生年金保険にかかる保険料

実際に支払われた賞与額(税引き前の総支給額)から1,000円未満を切り捨てた額を「標準賞与額」とし、その「標準賞与額」に健康保険・介護保険・厚生年金保険の保険料率(※)をかけた額となります。

保険料は、事業主と被保険者が折半で負担します。

また、介護保険料に関しては40〜64歳までの従業員を対象に控除されます。

「標準賞与額」の上限は、健康保険では年度の累計額573万円(年度は毎年4月1日から翌年3月31日まで)、厚生年金保険は1カ月あたり150万円とされていますが、同月内に2回以上支給される時は合算した額で上限額が適用されます。

※全国健康保険協会(協会けんぽ)の各保険料率

【厚生年金保険料率】

18.3%で固定されています。(厚生年金基金に加入している方の厚生年金保険料率は、基金ごとに定められている免除保険料率(2.4%~5.0%)を控除した率となります。

【介護保険料率】

令和5年3月分(5月1日納付期限分)からは1.82%です。定期的に変更されます。

【健康保険料率】

定期的に変更され、都道府県ごとに異なります。以下、令和5年度保険料額表にてご確認ください。

【参考:全国健康保険協会HP 令和5年度保険料額表(令和5年3月分から)】

会社が健康保険組合に加入している場合は、各健康保険組合ホームページにてご確認ください。

雇用保険にかかる保険料

賞与額の1,000円未満の端数は切り捨てず、実際に支払われた賞与額(税引き前の総支給額)に保険料率を掛けて計算します。1円未満の端数が発生する場合、50銭以下は切り捨てます。

保険料は、事業主と被保険者が折半で負担します。

雇用保険料率に関しては、以下HPにてご確認ください。

【参考:厚生労働省HP 雇用保険料率について】

賞与から控除される社会保険料(従業員負担分)の計算式

健康保険料

健康保険料 = 標準賞与額 × 健康保険料率 ÷ 2(※) 

※事業主と被保険者が半額ずつ負担(労使折半)するため。介護保険料、厚生年金保険料も同様。

介護保険料(40〜64歳までの従業員が対象)

介護保険料 = 標準賞与額 × 介護保険料率 ÷ 2

厚生年金保険料

厚生年金保険料 = 標準賞与額 × 厚生年金保険料率(18.3%)÷ 2

雇用保険料

雇用保険料 = 実際に支払われた賞与額× 雇用保険料率(労働者負担分)

控除される保険料の端数処理は、原則として50銭以下が切り捨て、50銭を超える場合は切り上げとなります。上記に関わらず、事業主と被保険者の間で特約がある場合には、特約に基づき端数処理をすることができます。

控除される所得税(源泉徴収税)の計算

賞与からは、所得税(源泉徴収税)の控除も行われます。ただし計算方法が、健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料・雇用保険料とは異なる点があるので、注意が必要です。なお、住民税は賞与から控除されることはありません。

『賞与から控除される所得税(源泉徴収税)』は、「賞与の金額から社会保険料を差し引いた金額」に「所得税率」をかけて求めます。

この「所得税率」の確認方法、そして『賞与から控除される所得税(源泉徴収税)』の計算方法は以下の通りです。

賞与から控除される所得税(源泉徴収税

「前月の給与から社会保険料を差し引いた金額」と「扶養親族等の人数」を確認する。

②  ➀をもとにして、「賞与に対する源泉徴収額の算出率の表」【参考:国税庁HP 令和5年分源泉徴収税額表】から「所得税率」を求める。

③ 賞与から控除される所得税(源泉徴収税)= 賞与から社会保険料を差し引いた金額 × 所得税率

ただし、前月の給料の金額の10倍を超える賞与を支払う場合や、前月に給与を支払っていない場合には、他の方法で計算しますので、以下HPを参考にしてください。【参考:国税庁HP 賞与に対する源泉徴収】

賞与の差引支給額(手取り額)の計算

賞与の差引支給額(手取り額)の計算式

賞与の差引支給額(手取り額)=「実際に支払われた賞与額(税引き前の総支給額)」-「社会保険料(健康保険料 + 厚生年金保険料 + 介護保険料 + 雇用保険料)」-「 所得税(源泉徴収税)」

会社が行う手続き

賞与支払届とは

従業員に賞与(ボーナス)を支払ったときには、会社は必ず「賞与支払届(被保険者賞与支払届)」を届け出なければなりません。賞与(ボーナス)についても健康保険・厚生年金保険の毎月の保険料と同率の保険料を納付することになっており、この届出内容によって標準賞与額、賞与の保険料額が決定されるとともに、従業員(被保険者)が将来受給する年金額の計算の基礎となります。

対象となる賞与とは

「賞与支払届(被保険者賞与支払届)」の対象となる賞与は、賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が労働の対償として受けるもののうち、年3回以下の支給のものです。なお、年4回以上支給されるものは対象外となり標準報酬月額の対象とされます。また、労働の対償とみなされない結婚祝金等の慶弔見舞金は対象外です。

例)給与規程において7月、12月に「○○手当」の支給を規定している場合、支給月が年2回と明確に規定されているため、通常の報酬ではなく賞与となります。

注意

毎年7月2日以降に、賞与にかかる諸規定を新設した場合には、年間を通じ4回以上の支給につき客観的に定められているときであっても、次期標準報酬月額の定時決定(7月、8月または9月の随時改定を含む)による標準報酬月額が適用されるまでの間は「賞与」として賞与支払届の対象となります。

詳しくは以下HPにてご確認ください。

【参考:日本年金機構HP 【事業主の皆さまへ】報酬・賞与の区分が明確化されます

賞与支払届の手続きの流れ

STEP
賞与支給の事実確認

まずは賞与支払い予定月における各従業員の賞与支給の事実を確認します。

賞与を支給していた場合は「賞与支払届」を、すべての被保険者に賞与を支給しなかった場合は「賞与不支給報告書」を届け出る必要があります。 賞与支払届の記入対象となるのは、役員も含め、賞与の支払いを受けた社会保険の被保険者と70歳以上の従業員(厚生年金保険の適用事業所で働く、過去に厚生年金保険の加入期間がある70歳以上の従業員)です。アルバイトやパート等で社会保険に未加入の場合は記入の対象外です。

STEP
届出書類の準備

「賞与支払届」と「賞与不支給報告書」は最寄りの年金事務所窓口で受け取るか、以下、日本年金機構のホームページからダウンロードすることができます。

【参考:日本年金機構HP 賞与を支給したとき、賞与支払予定月に賞与が不支給のとき】 

事前に日本年金機構または加入している健康保険組合に賞与支払予定月を登録している場合は、登録された賞与支払予定月の前月に、被保険者の氏名や生年月日等(被保険者氏名等の基本情報)が印字された「賞与支払届」が各企業に送付されてきます。(※賞与支払予定月の登録は、新規適用届または事業所関係変更(訂正)届の提出等により行われます。)書類が届いたら、印字されている内容を確認しましょう。

「被保険者氏名等の基本情報」を印字した届出用紙は、賞与支払予定月の前々月の19日までの情報を基に作成しているため、届出用紙に氏名等が印字されていない方がいる場合があります。「被保険者氏名等の基本情報」に氏名等が印字されていない従業員がいる場合は、印字されていない欄に手書き等で追記する必要があります。

賞与支払届に印字されている方で賞与の支払いがなかった方がいる場合は、該当者欄に斜線を引いてください。

その他、給与計算ソフトには、「賞与支払届」を自動作成できるものもあります。非常に便利な機能ですが、健康保険組合加入企業では指定のフォーマットが用意されている場合もあるため、注意が必要です。

また、「賞与支払届」は電子媒体での作成・提出や電子申請も可能です。

STEP
賞与支払届(又は賞与不支給報告書)の記入

チェックポイント

・賞与額は、総支給額(社会保険料・所得税など控除する前の金額)を記載する。

・ 「④賞与支払年月日(共通)」に賞与の支払日を記載しますが、支払日が異なる従業員については、個別で「④※上記「賞与支払年月日(共 通)」と同じ場合は記載不要です。」の欄に支給日を記載する。

詳しくは日本年金機構ホームページにて「賞与支払届」、「賞与不支給報告書」の記入例が掲載されていますので、以下ご確認の上ご記入ください。

【参考:日本年金機構HP 賞与を支給したとき、賞与支払予定月に賞与が不支給のとき

STEP
賞与支払届(又は賞与不支給報告書)の届出

届出書類を作成したら、管轄の年金事務所または年金機構広域事務センターに提出します。

提出期限は、賞与支給日より5日以内です。

提出には、郵送、窓口提出(年金事務所のみ)、電子申請、電子媒体(CDまたはDVD)の4つの方法があります。届出用紙は、被保険者整理番号順になるように、順番をそろえて提出してください。なお、協会けんぽ以外の健康保険組合に加入している場合は、健康保険組合にも提出が必要ですのでご注意ください。

電子申請にて届出する場合

電子申請を行う場合は、電子証明書または「GビズID」が必要になります。以下HPを参照してください。

【「参考:日本年金機構HP GビズID」「参考:日本年金機構HP 電子申請(e-Gov)」】

電子媒体にて届出する場合

CDまたはDVDの電子媒体により提出する場合は、「日本年金機構HP 電子申請(届書作成プログラム)」より「届書作成プログラム」をダウンロードする必要があります。また、提出の際には、事業所名称、事業所整理記号等を記載したラベルを電子媒体に貼付してください。詳しくは以下HPをご参照ください。

【参考:日本年金機構HP 電子媒体申請

電子媒体による届出を行う事業主の方で、事前に希望される場合は、賞与支払予定月の前月に被保険者氏名等の基本情報を収録した電子媒体(CD-RW)が送付されます。

(賞与支払予定月の登録は、新規適用届または事業所関係変更(訂正)届の提出等により行われます。) 提出先は管轄の年金事務所または事務センターです。

電子申請・電子媒体申請の概要等について詳しくは、以下HPをご参照ください。

【参考:日本年金機構HP 電子申請・電子媒体申請(事業主・社会保険事務担当の方)

STEP
標準賞与額の通知、保険料の納付

標準賞与額の通知

賞与支払届を提出すると、翌月中旬に管轄の年金事務所または事務センターから、「健康保険・厚生年金保険 標準賞与額決定通知書」と、毎月の社会保険料に賞与の社会保険料が合算された「保険料納入告知額・領収済額通知書」(保険料を口座振替にしている場合は「納入告知書」)が事業所に郵送されます。

不支給の場合は、標準賞与額決定通知書等の送付はありません。

決定された標準賞与額については、必ず被保険者本人へ通知するようにしてください。

「標準賞与額決定通知書」は、そのまま事業所で保管します。

保険料の納付

「保険料納入告知額・領収済額通知書」に従い保険料を納付してください。

納付期限は同書類が送付された月の末日(賞与支払届を提出した月の翌月末日)です。通常の標準報酬月額にかかる社会保険料と併せての納付となりますのでご注意ください。

賞与明細書の発行

賞与の支給時には、賞与明細書を発行する必要があります。

賞与の支給額、控除する項目、項目ごとの金額を記した賞与明細書を添えて、従業員に賞与を支給しなければなりません。

賞与の支払いにかかる控除項目や控除額の計算方法は、前述の「賞与の差引支給額(手取り額)の計算方法」をご確認ください。

賞与支払届の手続きにおける注意点

産前産後や育児休業中の従業員に賞与を支給した場合

産前産後休業中、育児休業中の保険料免除期間に支払われた賞与や資格喪失月に支払われた賞与(保険料賦課の対象とならない賞与)も標準賞与額として決定し、年度の累計額に含めます。そのため、該当する従業員に対して賞与を支給する場合は、社会保険料はかかりませんが、賞与支払届の提出は必要となります。

70歳以上の従業員に賞与を支給した場合

70歳以上の従業員に賞与を支払った場合、賞与支払い届の⑦欄にマイナンバーまたは基礎年金番号を記入し、⑧備考欄の「70歳以上被用者」に○をします。全国健康保険協会(協会けんぽ)管掌の健康保険の事業所の高齢任意加入被保険者については、賞与支払届の該当者の被保険者氏名欄の余白に「高齢任意」と記入します。また、健康保険組合管掌の健康保険の事業所の高齢任意加入被保険者については、管轄の年金事務所へ連絡すれば届出用紙を送付してもらえます。

中途入社した従業員に賞与を支給した場合

年度の途中で転勤・転職等により、被保険者資格の取得・喪失があった場合の「標準賞与額」の累計は、保険者単位(協会けんぽ、健康保険組合等)で行います。したがって、同一年度内で複数の被保険者期間がある場合は、同一の保険者である期間に決定された「標準賞与額」を累計することとなります。なお、同一年度内に複数の被保険者期間がない場合は、入社日以降に支払われた賞与だけが賞与支払届の対象です。

年度累計で573万円を超える賞与を支給した場合

前述の通り、標準賞与額には、健康保険は年度(4月1日から翌年3月31日までの1年間)累計額573万円、厚生年金保険は1か月あたり150万円という上限があります。この上限を超えた分の金額は、保険料の対象にはなりません。

ただし、同一年度内で複数の被保険者期間があり、標準賞与額の年度累計額が上限額573万円を超える場合、「健康保険 標準賞与額累計申出書」の提出をしなければ、573万円を超えた分も保険料の対象となるのでご注意ください。

健康保険 標準賞与額累計申出書とは

この申出書は、同一年度内で複数の被保険者期間があり、標準賞与額の年度累計額が上限額573万円を超える旨の申出が被保険者よりあった場合に、事業主が提出するものです。標準賞与額の累計額が573万円を超え、申出書を一度提出した場合で、その後同一年度内に賞与が支払われた場合についても、その都度この申出書を提出する必要があります。ただ、 同一年度内において被保険者期間が継続している(同一年度内に被保険者期間が複数ない)場合は、この申出書を提出する必要はありません。

【出典:日本年金機構HP 年間の標準賞与額の累計額が573万円を超えたとき

退職者に賞与を支払った場合

賞与は社会保険料の賦課対象になりますが、賞与支払月に社会保険の資格を喪失した場合は賞与にかかる社会保険料は徴収されません。ただし、保険料は徴収されなくても標準賞与額の決定は行われ、標準賞与額の累計額(年度の累計額573万円)にも含まれます。そのため、賞与を支払った場合は、退職者についても賞与支払届の提出は必要となります。なお、退職日の翌日が資格喪失日となるため、賞与支払い月の月末に退職した場合、資格喪失日は翌月1日になります。この場合は、賞与支払い月の資格喪失にはならず、社会保険料の賦課対象となるためご注意ください。

資格取得月と同月に資格喪失した従業員に賞与を支給した場合

資格取得月(資格取得日以降)に支払われた賞与は保険料賦課の対象となりますが、資格喪失月に支払われた賞与は保険料賦課の対象とはなりません。ただし、資格取得と同月に資格喪失があった場合は、資格取得日から資格喪失日の前日(=退職日)までに支給された賞与については、保険料賦課の対象となりますので、賞与支払届を提出してください。

賞与支払届の提出をしなかった場合

賞与支払届の提出をしなかった場合、原則として、登録した賞与支払い予定月の翌々月に催告状が届きます。もしも届出をせず催告状を受け取ったときは、すぐに届出と保険料の納付を行ってください。遡及して手続きを行う場合、時効が2年間であることにも注意が必要です。

おわりに

賞与支給時に控除される社会保険料や所得税などの計算は、各従業員の状況によって異なるため少し複雑に感じますが、一つずつの計算は難しくありません。一つ一つ順番に確実に計算するようにしてください。

また、「賞与支払届」の手続きは、従業員の将来の年金受給額などにも影響する重要な手続きとなりますが、つい忘れてしまいがちな手続きですので、事前にスケジュールを組んでおくことをおすすめいたします。

目次